一口に下痢と言っても、一時的で自然に良くなるものから、命に関わる重大なものまで下痢を起こしている原因によって様々です。
今起こってる下痢が危険なものなのかどうかは、猫ちゃんを飼っている方にとってはとても心配に思われることでしょう。
このページでは、そんな猫の下痢について「病院を今すぐ受診すべきかどうか」の判断基準や、危険な下痢の症状について解説しています。
また、受診の際に獣医さんに伝えるポイントを「8つのチェック項目」にして紹介していますので、こちらも是非参考にしてみてください。
「危険な下痢の症状」についてすぐに確認したい方はこちらからもご覧いただけます。
目次
猫が下痢をしたときは…
下痢を引き起こす原因は非常に沢山あります。闇雲に原因を探してみても、何から手につけていいのか分からなくなってしまします。
そこで、獣医さんは以下の2つの観点から下痢を細かく分類して考えていきます。この分類は、下痢の原因を見つける上で非常に強い情報になります!
皆さんも、以下の特徴を意識して下痢の症状を観察してみてください。動物病院にかかる際にこれらの情報があるだけで、とっても獣医さんが診断しやすくなります!
獣医さんがまず見る2つのポイント。
- 下痢の由来が小腸なのか、大腸なのか?
- どれくらい下痢が続いているのか。(急性or慢性)
この2つの観点の組み合わせ(2×2)により、下痢を細かくふるい分けます。
「慢性大腸性下痢」や、「急性小腸性下痢」などの様に経過と部位を元に下痢のタイプを絞り込んでいきます。
え?下痢の出所が小腸か大腸かなんて分からないよ!!と思うかも知れませんね。
次にそれぞれの基準を解説します。
病院に受診される際は、これらの要点を伝えると、とてもスムーズに診療が進むと思いますので参考にしてみてください。
下痢の診断基準となるチェック項目
❶ 小腸の下痢か大腸の下痢か
小腸性の下痢と大腸性の下痢には以下のような特徴があります。どちらの特徴に近いかでおよその由来を推測します。
▼「小腸性」or「大腸性」の下痢のチェック項目
チェック項目 | 小腸性下痢の兆候 | 大腸性下痢の兆候 |
1. 体重減少 | 予測される | まれ |
2. 多食 | たまに見られる | まれまたはみられない |
3. 腸運動の頻度 | ほとんど正常に近い | ときに著しく増加 |
4. 糞便の量 | しばしば増量 | ときに減少(頻度が増すため) |
5. 糞便中の血液 | 黒色 | 血便(鮮血) |
6. 糞便中の粘液 | 一般的でない | ときに |
7. しぶり | 一般的でない | ときに |
8. 嘔吐 | ありうる | ありうる |
参照:Small Animal Internal Medicine 第4版より引用
❷ 慢性か急性か
これは至ってシンプルです。
およそ、発症から1週間未満のものを急性、発症から1ヶ月以上持続するものを慢性と扱います。
獣医さんはこのようにして下痢をタイプ分して考えますので、症状を伝える際に、
便の色、便の量、出血の有無、便の回数、発症してからの日数をメモなどに記録して行くと良いでしょう。
猫の下痢の原因
なぜ、わざわざこのような分類をするのでしょうか?
それは、慢性と急性、小腸由来と大腸由来で考えられる原因が変わってくるからです。
下痢の主な原因としては以下に挙げる5つのカテゴリーがあります。
- 食事による影響
- 炎症性疾患
- 感染症 (細菌や寄生虫、ウイルスなど)
- 消化管以外の病気
- 消化管の運動の問題
下痢を起こしている腸がどこか、経過はどうかが分かると、このカテゴリーのふるい分けが行いやすくなりますので、グッと原因の特定に近づきます。
注意しないといけない下痢とは?
ここまで、やや専門的な難しい下痢のタイプとカテゴリーについてご紹介しました。
獣医さんはこのように下痢の症状から掘り下げ、その下痢の危険度について考えながら診察にあたっています。
では、実際に注意しないといけない下痢はどのような下痢でしょうか?
先に、少し様子を見ても良さそうな下痢の症状から紹介します。
危険性の低い下痢
「急性大腸性下痢」で、食欲も元気もあるような下痢はほとんどが自然に良くなってしまうことが多いです。寄生虫に感染していないかは注意する必要がありますが、大体は原因特定せずに下痢止めなどの対症療法などで反応するか様子を見ることが多いでしょう。
急性大腸性下痢の原因例
- 寄生虫(鞭虫)
- 痙攣性大腸炎
- 細菌性大腸炎
参照:伴侶動物の臨床病理学より引用
「急性小腸性下痢」でもそれ以外の症状がなく元気なケースも、消化器系のご飯への食事変更などで様子をみる余裕がある事がほとんどです。
寄生虫がいないかは常に確認する必要はありますが、単独飼育で完全室内飼育の子などでは新たに感染するといった機会もあまりないかと思います。
急性小腸性下痢(全身症状なし)の原因例
- 食事による影響(フードの変更など)
- 寄生虫・原虫
- ゴミあさり
- 医原性(お薬の影響など)
参照:伴侶動物の臨床病理学より引用
ブリーダーやペットショップ出身の子猫は、比較的寄生虫を持っている可能性が高いです。 基本どの子も駆虫薬は投与されているものの、駆虫薬はお腹の中にいる虫が成虫になっていないと、効き目がありません。
そのため、お家に連れてきた数日~数週間後に虫が孵化して、下痢をするといったケースもあるのです。
では次に、注意しないといけない下痢はどのようなものでしょうか?
注意すべき危険な下痢のサイン
これまで解説してきた大きなタイプ分類から、下痢の中でも特に注意が必要な5つのケースや症状についてご紹介します。
これらのケースでは、なるべく早めに獣医さんに診てもらうようにした方がよいでしょう。
1. 経過の長い(3〜4週間以上持続するもの)下痢
小腸性であれ大腸性であれ、長期化している場合はしっかり検査してあげる必要があります。何か病気が隠れているかもしれません。
2. 急性の小腸性下痢で、全身症状やその他の症状が出ているもの
下痢以外に食欲の低下や発熱、元気がない、嘔吐、体重が減っている、ふらついている、etc
この様な他の症状も現れている場合も要注意です。これらは緊急性の高いものも多く含まれるの
ですぐに病院を受診しましょう。
3. 生後半年以内の子猫や高齢猫の場合
免疫力が弱いため、ちょっとしたことでも大きな被害につながることがあります。
なるべく早急に獣医さんに診てもらうようにしましょう。
4. 異物誤飲したことが分かっている場合
腸閉塞や、ものによっては中毒を引き起こす危険も。
植物類やネギ類など、猫の中毒原因になるものは意外と多いです。
5. 大量の水分や血液を噴出する様な激しい下痢
こちらは、とりわけ緊急性が高い下痢になります。
この様な大量に水分を失う様な下痢はショックを起こし、命に関わる場合がありますので様子をみずに、手遅れになる前に病院へ受診しましょう。
病院に行く際はメモ+写真が大切?
病院に連れて行く際は、下にある「受診前のチェック事項」を参考に猫の症状の経緯をちょっとしたメモにまとめておくようにしましょう。
またちょっと気持ち悪いかもしれませんが、下痢の画像などを、携帯で撮っておくのをおすすめします。
傍目にはただの下痢であっても、獣医さんの目から視ると、何かの気付きがあるかもしれないからです。
獣医さんの判断材料を増やすことが、より正確な治療につながります。
▲わたげが過去に嘔吐+下痢が続いてしまった時のメモです。(字が汚くて申し訳ないです。。)
内容は「いつ」「どのような下痢・嘔吐が続いているか」「他に何か気になる症状が出てるか」「何を食べたか」などが書いてあります。
受診前のチェック項目
病院で診てもらう前に、下痢の症状についてメモを取っておくことで、病院での診療がスムーズに進み、また、適切な下痢症状の治療につながります。
下痢の診断の基礎となる「8つのチェック項目」を紹介していますので是非参考にしてみてください。
- 体重の増減
- 食事量の変化
- 糞便の量
- 糞便中の血液の有無(色あい)
- 糞便中の粘液(ゼリー状の液体)
- しぶり症状の有無(排便の切れの悪さ)
- 嘔吐の有無
- 症状が始まってからの日数
まとめ
猫はちょくちょく下痢をしてしまう生き物です。大切なのは下痢の原因に応じた対処法を取ることです。
緊急性の高いケースと、様子見OKのケースを理解しておくことで、いざという時にすぐに獣医さんの元へ連れて行くことができるでしょう。
また、よくある下痢の場合、猫のお尻汚れなどが気になる方もいると思います。
簡単にきれいにする方法をこちらにまとめているので、参考にしてみてください。
参考文献
- 小動物医学 鑑別診断と治療 第3版
- 伴侶動物の臨床病理学
- Small Animal Internal Medicine 第4版
- SA Medicine No.112 下痢①