野良猫と仲良くなりたいと考えている猫好きの方は少なくないことでしょう。
- 事情があって自分で飼うことはできないが気になる野良猫がいる
- いつも見かけるあの野良猫との距離を近づけたい
- 可哀想なのでなんとか保護して里親を探したい
野良猫に近づきたいと思う理由は色々ありますが、実際にどうすれば仲良くなれるか分からないことが多いのではないでしょうか。
このページでは、野良猫と仲良くなる5つのコツとやってはいけない注意事項を獣医師の目線からご紹介したいと思います。
本当に野良猫かどうか見極める
野良猫と仲良くなるコツをお話していく前に、その子が本当に野良猫なのかどうか確認することが何より重要です。
野良猫に見えても、迷い猫であったり誰か飼い主がいる可能性もあるからです。
では、飼い猫か野良猫かを見極めるポイントをご紹介したいと思います。
首輪があるかどうか
首輪があれば、ほぼ飼い猫と考えてよいでしょう。
一方で、首輪が付いていない場合は、野良猫とは断言できません。
普段は室内で飼われている猫が逃げ出したケースなどでは、首輪をしていないことの方が多いと考えられます。
耳先がカットされているかどうか
野良猫の中には耳の先にV字のカットがある猫がいます。
これは、これ以上野良猫が増えてしまわないように、去勢・不妊手術を受けている証しです。
すでに手術を受けているのにも関わらず、再度保護されて麻酔にかけられるのを防ぐ目的でカットされています。
耳先がカットされた猫を見かけた場合には、野良猫であることがほとんどです。
しかし、保護できたとしても去勢・不妊手術を受けに動物病院に連れて行く必要はありませんので覚えておきましょう。
餌付けをしている人がいるかどうか
もし決まった時間に決まった場所で餌付けをしている人がいたら、直接確認してみましょう。
おおよそ、地域猫としてお世話されている野良猫ですが、稀に所有権を巡ってトラブルに発展することがありますので、注意しましょう。
野良猫との距離を測る
さて、ここまでのポイントを踏まえて、気になっている子が野良猫である可能性が高いと判断できたとします。
次に行なうのは、野良猫との距離を測ること。といっても実際の距離を測定するのではなく、どこまで近づくことができるのかを把握しましょう。
野良猫の多くは人に対して強い警戒心を持っています。
そのため、不用意に近づいたり追い詰めたりするとすぐに逃げ出してしまいます。
場合によっては噛みついたり引っ掻いたりして攻撃してくることすらありますので、注意が必要です。
近づく際のポイントは次の点です。
- 野良猫と目を合わせない
- 勢いよく近づかない
- 激しい動きはしない
- 大きな音は立てない
猫にとって目をじっと見つめられることは、敵に威嚇されているものと認識されます。
そのため、威嚇により恐怖心が高まると逃げ出してしまうのです。
同様に、急に走って近づいたり、激しい動きを見せたり、大きな音を立てるのも野良猫の恐怖心を煽ってしまうためNGと言えます。
これらのポイントに注意しながらゆっくり近づいて行くと、「あっ、これ以上は野良猫が逃げ出すな」という限界の距離が分かります。
もし、現時点である程度距離を保ったまま逃げ出される場合には、これからご紹介するコツを参考に時間をかけて近づいていく必要があります。
野良猫にエサを与える
ここから、実際に野良猫と仲良くなるためのコツを順に紹介していきます。
まず最も効果的なのは“餌付け”をすることです。
では、現時点の野良猫との距離を参考にした上で、適切な餌付けの仕方をご紹介します。
まだ野良猫との距離がある場合の餌付け
ある程度近づくと逃げられてしまう野良猫は、まだまだ警戒心が強いと考えられます。
いきなり近づいて直接餌付けをすることはできません。
その場合は、自分から少し離れた位置にエサを置く必要があります。
用意したエサを野良猫の方向に投げてもよいのですが、物を投げられたことに対してびっくりして逃げてしまう恐れがあります。
より良いのは、今自分がいる位置にエサを設置してその場を離れること。
この時使用するエサはできるだけにおいが強いものが良いでしょう。
少し距離を広げることで野良猫が警戒心を緩めてエサに興味を持ってくれるかもしれません。
野良猫が見える位置にいるとなかなかエサに近づこうとしない子も少なくありません。
その場合は、一旦その場を立ち去って下さい。
人の姿が見えなくなったらエサを食べてくれる可能性が高まります。
大切なのは、時間が経ったら必ずその場所を確認しに行くこと。
エサを残したままだとカラスが集まったりして近所迷惑になる可能性があります。
残したエサやゴミは必ず回収して下さい。
もし、エサが無くなっていたら野良猫が食べてくれたかもしれません。後日同じように距離を取りながらの餌付けにトライしてみましょう。
このようにして、少しずつ距離を詰めていくのがポイントです。
かなりの近距離まで近づける場合の餌付け
この場合も同じように少し離した位置にエサを設置しましょう。
かなり近距離まで近づけるようになっていれば、野良猫の視野にいてもエサを食べてくれるかもしれません。
さらに手の届くぐらいまで近づけるようになったら、ちゅーるなどの手に持って直接与えられるおやつを試してみましょう。
近距離を保ちながら餌付けできるようになれば、かなり警戒心を解いてくれている証拠です。
市販されている猫用のドライフードでも構いませんが、よりにおいの強いエサがオススメです。
例えば、ウェットフードや猫用のおやつなどです。
また、繰り返し与えることは推奨されませんが、鶏の唐揚げなども野良猫の食いつきが良いとされます。
理想は、与える前に電子レンジで軽く温めておくと、さらににおいが強くなるので野良猫が興味を持ちやすくなるでしょう。
野良猫との距離を詰める上で効果的な餌付けですが、お住いの地域の条例等で禁止されている場合があります。
必ず、地域の事情を把握してから行ないましょう。
野良猫に触れてみる
だいぶ野良猫が慣れてきて距離が縮まったら少しだけ触ってみましょう。
この時大切なのが、手のひらでわしゃわしゃ撫でようとしないこと。
この人に触られても怖いことは起きないということを野良猫にわかってもらうのが重要です。
続けていくうちに徐々に距離を縮めていくことをイメージして下さい。
まずは人差し指を顔の前に出してみましょう。
猫が鼻を近づけて指のにおいをクンクン嗅いだら興味を持っている証拠。
これを繰り返し行ない、慣れてきたら人差し指のまま、顔の周りや猫の体をスッと触ってみてください。
慣れてきたら指の本数を増やしていき、最終的には手のひらで触られることに慣らします。
手のひらを使って触ることができるようになったら、額やあごの下を撫でたり掻いてみましょう。
ここまで出来ればその野良猫は警戒心を解き、かなり慣れていると言えるでしょう。
直接触るのがまだ難しい場合は孫の手を使う
野良猫によっては、ある程度近づくことができても指を前に出されると恐怖心のあまり噛んでしまったり引っ掻いてしまう子もいます。
そのようなケースでは「孫の手」が有効かも知れません。
猫は頬やあごの下を優しくカキカキされるのが大好きな動物です。
孫の手は距離を保ちながら野良猫の体に触れるのに適したアイテムと言えます。
もし、孫の手が当たってびっくりする子には、孫の手の先にペースト状のおやつを乗せて舐めさせると次第に慣れてくれることでしょう。
このように工夫すると、触られるといいことがあるというイメージを植え付けることができます。
人獣共通感染症について知っておこう
人と猫では、病気の原因となる微生物が異なるのが一般的ですが、中には共通するものも存在します。
この共通する病原体によって起こる病気を「人獣共通感染症」と呼びます。
こうした病気が猫から人にうつる場合、そのルートにはいくつか考えられます。
猫から人に感染するのは、以上の4経路が主に挙げられます。
それぞれの経路によって起こりうる感染症をご紹介します。
① 寄生虫からうつる
ノミやダニなどが猫から人へ取りつくと、強いかゆみを引き起こしたり、皮膚炎を生じます。
また、猫に寄生しているノミには瓜実条虫(サナダ虫)がさらに寄生していることがあります。
もし、この瓜実条虫を人の口に入ってしまうと、腹痛や下痢を起こすため注意が必要です。
② 便などの排泄物でうつる
トキソプラズマや回虫は、感染している猫の糞便の中に存在しており、もしその便に触れた手で口の周りを触ったりご飯を食べてしまうと、人に感染する可能性があります。
特にトキソプラズマは、妊婦が感染すると流産してしまったり、赤ちゃんに生まれ持った奇形や障害を生じる恐れがある、たいへん恐ろしい病気です。
③ 唾液からうつる
猫の唾液や口の中には、「パスツレラ」という細菌が常在しています。
そのため、通常は猫に対しては無害ですが、猫の唾液が口の中に入ったり飛沫感染すると、人にパスツレラ症という病気を引き起こします。
多くの場合に問題ありませんが、傷口などに侵入するとそのまま感染者の血流にパスツレラ菌が乗り、全身を巡って細菌性心内膜炎などを生じることが稀にあります。
④ 噛まれる、引っ掻かれることでうつる
最も起こりうるのがこの経路です。
パスツレラ症の他にも、「バルトネラヘンセラ」という細菌が原因となる「猫ひっかき病」を生じる可能性があります。
そのため、噛まれたり引っ掻かれたりした際には、必ず傷口をよく洗い消毒しましょう。
野良猫と触れ合ったら
野良猫と触れた際には、ここまで紹介したどの経路からも病原体が感染する恐れがあります。
触れた後はよく手を洗い・うがいをするようにして下さい。また、触れた後にそのまま食べ物を口にしたり飲んだりしないよう心がけましょう。
詳しくはこちらの記事もご参照してみてください!
遊びで釣る
野良猫との距離が近づいてきて、なんとか触れるようになってきたら、猫じゃらしでさらに仲良くなりましょう。
猫じゃらしは、ほとんどの猫が大好きです。
この時のポイントは野良猫を追おうとするのでなく、猫におもちゃを追わせること。
遊びに夢中になるうちに、さらに人との距離が縮まり、どんどん警戒心が薄れていくでしょう。
すぐに効果を期待せずに、気長に続けることが大切です。
まとめ
いかがでしょうか?
今回紹介したように、現在の野良猫との距離をしっかり把握した上で、ゆっくりとステップを踏むと野良猫とも仲良くなることができます。
大切なのはどの段階であっても焦らないこと。
そもそも野良猫は、お家で飼われている猫と比べて警戒心が高く怖がりです。
その警戒心を解き仲良くなるためには、長い時間が必要なことを改めて理解してから近づいていきましょう。
野良猫のお世話をする・可愛がるということは、その野良猫に対して責任を持つということだと改めて認識してから接触しましょう。
また、野良猫と触れることでさまざまな病気がうつる可能性があります。
野良猫は、家猫と比べても今回紹介したような「人獣共通感染症」を持っていることが多いため、注意が必要です。
触れた後はよく手を洗い、そのまま食べ物を口にしたり飲んだりしないよう心がけましょう。
さらに、これらの病気は、子供やお年寄り、病気の治療中の方や妊婦の方は重症化しやすい傾向にあります。
免疫力が低下している・その恐れがある方には、極力野良猫と接触させないよう心配りをすることも大切です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
実際に猫を保護することになった場合、何をどうすればいいのか気になりませんか?
こちらのページでは「野良猫を保護して飼い始める際に大切な7つのポイント」を紹介していますので参考にしてください。
参考文献
- 「野良猫の拾い方」 大泉書店 (2018/4/24) 東京キャットガーディアン (監修),
さまざまな事情から猫を飼うことができない場合、近所で見かける野良猫が気になってしまうのは猫好きにとって自然なことかもしれません。
しかし、無責任にエサやりをすることは近隣の迷惑となってしまうことがあります。
野良猫のお世話をする・可愛がるということは、その野良猫に対して責任を持つということだと改めて認識してから接触しましょう。